理学療法士として対象者と関わっていると、いろいろな質問をする機会があります。
「今日は調子どうですか?」
「痛みはどうですか?」
「家では運動できましたか?」
「今、困っていることはありますか?」
私自身、理学療法士として20年以上、さまざまな方と関わってきました。
そして、コーチングを学び、実践するようになってから、質問の仕方についても考えることが増えました。
その中で、私がよく使う、とてもシンプルな質問があります。
それが、
「他には?」
です。
たった一言ですが、この質問によって、それまでとは少し違った言葉が出てくることがあります。
今回は、理学療法士×プロコーチの立場から、私が大切にしている「他には?」という質問についてご紹介します。
人は聞かれたことに、まず思いついたことを答える
私たちは何か質問をされると、まずは普段から考えていることや、すぐに思いついたことを答えることが多いです。
例えば、
「今、仕事で困っていることはありますか?」
と聞かれたとします。
すると、
「最近、忙しくて時間がないことです」
と答える。
もちろん、それもその人にとって大切な答えです。
そこで、すぐに、
「どうしたら時間を作れそうですか?」
と次の質問に進むこともできます。
ただ、私はそこで、
「他には?」
と聞くことを意識しています。
すると、
「他には……そうですね」
と少し考える時間が生まれます。
そして、
「実は、後輩との関わり方にも少し悩んでいて……」
など、最初とは違う話が出てくることがあります。
さらに、
「他にはありますか?」
と聞いてみる。
すると、また少し考えて、
「そういえば、自分がこの仕事を続けていくことにも少し迷いがあって……」
と、もう少し奥にあった思いが言葉になることもあります。
最初に出てきた答えが本音ではない、ということではありません。
最初の答えも、その人にとって大切なものです。
ただ、その人の中には、
まだ言葉になっていないことがあるかもしれない。
そして、別々に出てきた課題が、その人の根っこで繋がっていることもある。
そんなふうに考えています。
コーチングの「他には?」で少しずらしてみる
コーチングスキルの質問の中は「スライドアウト」という考え方があります。
一つのテーマについて話しているときに、そこだけを深掘りするのではなく、少し横にずらしてみるイメージです。
私は、このスライドアウトをするときに、
「他には?」
という質問をよく使います。
すぐに一つのことを深掘りするのではなく、
「他にも何かあるかな?」
と、一度少し広げてみる。
そうすることで、その人自身もまだ意識していなかったことが出てくる場合があります。
質問というと、
「もっと良い質問をしなければ」
「相手が気づくような質問をしなければ」
と考えることもあるかもしれません。
でも、必ずしも難しい質問が必要なわけではありません。
相手が話してくれたことを受け取った上で、
「他には?」
と、シンプルに聞いてみる。
それだけで、対話が少し広がることがあります。
これは、リハビリテーションの場面でも使える考え方だと思っています。
リハビリテーションの場面で「他には?」と聞いてみる
例えば、対象者に、
「今、生活の中で困っていることはありますか?」
と聞いたとします。
「階段を上るのが大変です」
と答えたとき、私たちリハ職は専門職なので、
「どのくらい痛みがありますか?」
「手すりはありますか?」
「何段くらいありますか?」
など、具体的なことを確認したくなります。
もちろん、専門職として必要な質問です。
ただ、その前に、
「他にはありますか?」
と聞いてみる。
すると、
「買い物に行くのも大変で……」
「孫と一緒に出かけたいんだけど、今は自信がなくて……」
など、最初とは違った話が出てくるかもしれません。
そうすると、私たちが考えていた「階段を上れるようになる」ということだけではなく、その人が生活の中で大切にしたいことが少しずつ見えてくることがあります。

リハビリテーションでは、身体機能やADLについて確認することはもちろん大切です。
一方で、その先にある、
「その人はどうしたいのか?」
というところにも興味・関心を向けていく。
私は、ここがとても大切だと考えています。
そして、そのための一つの質問として、「他には?」は使いやすいと感じています。
リハビリテーションにおける目標設定については、こちらの記事でもコーチングの視点から詳しくご紹介しています。
「他には?」と聞いた後に大切なこと
そして、もう一つ大切にしたいことがあります。
それは、
「他には?」と聞いた後に、少し待つことです。
「他には?」
と聞いて、相手がすぐに答えなかったとき。
ついつい、
「例えば……」
と、こちらから言葉を足したくなることがあります。
私自身も、沈黙があると、つい言葉を足したくなることがあります。
でも、その沈黙の時間に、相手は自分の中にあるものを探しているのかもしれません。
だから、少し待ってみる。
すると、
「うーん……他には……」
というところから、その人なりの言葉が出てくることがあります。
質問することと同じくらい、待つことも大切。
沈黙も傾聴の一つと言えます。
これらは、私自身もコーチングを実践する中で、大切にしていることです。
質問の技術だけではなく、相手への興味・関心
今回、「他には?」という質問スキルのスライドアウトをご紹介しました。
ただ、「他には?」と聞けば、必ず相手の本音が出てくるわけではありません。
大切なのは、この言葉をテクニックとして使うことだけではないと思っています。
目の前の人に対して、
「この方は、他にどんなことを考えているのだろう?」
「この方には、まだ、きっとご自身も気づいていない可能性があるかもしれない」
と興味・関心を持つこと。
その姿勢があって、その上で「他には?」と聞いてみる。
そうすると、この短い質問の意味も変わってくるのではないでしょうか。
私自身、理学療法士として対象者と関わるときも、コーチとしてクライアントと関わるときも、このことを大切にしています。
専門職として、こちらが答えを持っている場面はたくさんあります。
だからこそ、すぐに答えを出すだけでなく、ときには問いかけて、待ってみる。
そして、そこから出てきたその人自身の言葉を大切にする。
そんな対話の積み重ねが、対象者の可能性を広げるだけでなく、私たちリハ職自身の成長にもつながるのではないかと思っています。
明日の臨床で、
「他には?」
と、一度聞いてみてはいかがでしょうか。
リハ職が臨床や後輩育成、多職種連携などで活用できるコーチングについては、こちらの記事でもご紹介しています。




