臨床実習で、指導者として学生の主体的な学びをどのように支えていくか。
理学療法士の臨床実習指導者には、一定の実務経験に加えて、臨床実習指導者講習会を修了することが求められています。
臨床実習指導者講習会では、臨床実習制度や教育方法など、学生を指導するために必要な内容を学びます。
では、実際の臨床現場で学生と向き合うとき、指導者にはどのような力が求められるのでしょうか。
そのような中、日本理学療法教育学会の「理学療法卒前教育ガイドライン」を読み、とても興味を持った部分がありました。
それが、臨床実習指導者に求められる「コンピテンシー」です。
臨床実習指導者に求められる4つのコンピテンシー
ガイドラインでは、臨床実習指導者が備えるべき教育者としてのコンピテンシーとして、
①対人スキル
②専門職種としてのロールモデル
③評価能力
④指導力
の4つが示されています。
中でも、私が特に興味を持ったのが「対人スキル」です。
ガイドラインでは、学生にこまめに声をかけ、課題の難易度や理解度だけでなく、モチベーション、興味、体調、心理的状況なども把握しながら、「実習生を中心とした学び」を促していくことが重要とされています。
この部分を読みながら、
「ここは、相手の自律性を育むことを目的の一つとするコーチングのマインドやスキルを活かせるかも知れない」
と感じました。
学生に何を教えるか。
もちろん、それも大切です。
でも、それだけではなく、
「学生に何が起きるように関わるか」
という視点も大切なのではないでしょうか。
「どう質問するか」の前に、「どう在るか」
学生指導にコーチングを活用するというと、「傾聴」「質問」「承認」「フィードバック」などの、いわゆる”コーチングスキル”に目が向きやすくなります。
ただ、その前に大切なのが、
「指導者として、どう在るのか」
という、コーチングマインドのことだと考えています。
学生を一方的に「教える対象」として見るのか。
それとも、自ら考え、学び、成長する力を持った存在として関わるのか。
同じ質問や声かけでも、その前提によって学生への伝わり方は変わってくるように思います。
学生と「何を共につくるのか」
そして、もう一つ大切なのが、
「学生と何を共につくるのか」
という視点です。
臨床実習には、養成校が掲げるDP(ディプロマ・ポリシー)があり、それぞれの実習にも目的や到達目標があります。
ガイドラインでも、実習生・実習指導者・養成施設の教員で共通の目標を設定し、学修の方向性を一致させることの必要性が示されています。
「今回の実習で何を学びたい?」
「どんなことができるようになりたい?」
「どんな理学療法士になりたい?」
そのようなことを学生と対話しながら、
学生と一緒に「実習」をつくっていく。
ここが曖昧なまま実習が進むと、学生も指導者も「何のために?」となりやすいのかもしれません。
実習の目的や目標を共有し、合意しながら進んでいくことも、学生主体の学びにつながるのではないでしょうか。
実際に学生の言語化をどのように促すかについて、コーチング的な観点で解説した記事はこちら。
▶理学療法学生の臨床実習(CCS)に活かすコーチング|学生の「言語化」を促す対話の力
指導者は「ロールモデル」でもある
そして、私がとても興味を持ったのが、ガイドラインでいう「対人スキル」は、指導者と学生との関係だけではないということです。
実習生がチームの一員として患者さんに向き合えるよう支援することも、指導者の役割として示されています。
つまり、
指導者 ↔ 学生
だけでなく、
学生 ↔ 対象者
学生 ↔ 多職種・チーム
の関係づくりにも指導者が関わっていく。
さらに、指導者自身の対象者への関わり方や、多職種とのコミュニケーションも、学生にとっての「ロールモデル」になります。
ガイドラインでも、患者対応やチーム連携、言動など、指導者の態度や行動そのものが学生への教育的なメッセージになることが示されています。
ここにも、コーチングのマインドやスキルを活かせる場面は多くありそうです。
理学療法教育とコーチング、2つの「コンピテンシー」
国際コーチング連盟(ICF)のコア・コンピテンシーにも、コーチに求められる能力が示されています。
大きく、
A.Foundation(基盤を整える)
B.Co-Creating the Relationship(関係性を共に築く)
C.Communicating Effectively(効果的にコミュニケーションする)
D.Cultivating Learning and Growth(学習と成長を育む)
という4つの領域があります。
学生指導にコーチングを活かそうとすると、CのコミュニケーションやDの学習と成長に目が向きやすいように思います。
でも、私自身は、臨床実習では、その前のAとBも大切なのではないかと感じています。
A:指導者として、どう在るのか。
B:学生と、何を共につくるのか。
C:傾聴や質問、フィードバックを通して対話する。
D:学生の気づき、内省、主体的な学びと成長を支える。
もちろん、理学療法教育とコーチングのコンピテンシーは同じものではありません。
でも、両者を照らし合わせてみることで、臨床実習指導にコーチングをどのように活かせるのか(スキルだけでなく、マインドやコンピテンシーの部分も含む)、いろいろな接点が見えてきます。
理学療法士として、そしてコーチとして、私自身もさらに深めていきたいテーマでもあります。
臨床実習指導者向けの研修・講演について
今後、
「臨床実習指導者に求められるコンピテンシーとコーチング」
などをテーマに、理学療法士養成校や都道府県理学療法士会、臨床実習指導者会議などで、学生主体の学びを支える「あり方」「関係性」「コミュニケーション」について、一緒に考える機会をつくっていきたいと思っています。
学生に何を教えるか。
その前に、
「指導者として、どう在るのか」
「学生と、何を共につくるのか」
そんなところから、臨床実習について考えてみる。
理学療法士×コーチングだからこそ、お伝えできることがある。
そのような可能性を強く感じています。
なお、理学療法士養成校においても、これから医療・介護・地域で活躍する学生を対象に、キャリア支援やコミュニケーション教育に携わっています。
今回の記事に関して、理学療法士養成校、臨床指導者会議、都道府県理学療法士会、医療機関等での研修・講演について、ご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。




