リハビリテーションにおいて、「目標設定」は欠かすことのできない大切なプロセスです。
「歩行自立」
「ADLの向上」
「自宅退院」
「復職」
臨床では、対象者とさまざまな目標を設定します。
もちろん、こうした目標を設定することは大切です。
一方で、私自身も理学療法士として臨床に携わる中で、
「この目標は、本人が本当に望んでいる目標かな?」
と考えることがあります。
専門職として必要だと考える目標と、その人にとって大切なことは、必ずしも同じとは限りません。
今回は、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などのリハ職に共通する「目標設定」について、理学療法士、そしてプロコーチとしての視点から考えてみたいと思います。
リハビリテーションにおいて「本人中心の目標設定」が大切にされている
リハビリテーションにおいて、その人を中心に考えることの重要性は以前から指摘されています。
WHO(世界保健機関)では、リハビリテーションについて、本人の目標や好みに合わせて介入を選択する、person-centred(その人中心)のものとして説明しています。
また、患者中心の目標設定に関する研究では、患者が目標設定のプロセスに参加することが、自信やモチベーション、リハビリテーションへの満足などにつながる可能性も報告されています。
ここで大切なのは、専門職が、
「この機能を改善する必要がある」
と考えることだけではなく、
「その人がどのような生活を送りたいのか」
という視点からも目標を考えていくことです。

「この目標は、誰にとっての目標だろう?」
専門職から見える「歩行自立」「ADLの向上」「自宅退院」といった目標も大切です。
同時に、
「孫と一緒に出かけたい」
「自分で買い物をしたい」
「また仕事に戻りたい」
「自分らしく暮らしたい」
という、その人にとって大切なことがあります。
こうした場合、どちらか一方を正解にするのではなく、
専門職としての視点と、本人が大切にしていることを、対話を通してつないでいく。
そうした双方向な対話から、その人にとって意味のある目標が見えてくるのだと思います。
「目標を聞く」だけで、本人中心になるのだろうか?
では、本人中心の目標設定とは、
「あなたの目標は何ですか?」
と対象者に聞き、答えてもらうことなのでしょうか。
私は、それだけではないと考えています。
対象者の中には、
「また旅行に行きたい」
「仕事に戻りたい」
「孫と一緒に出かけたい」
など、具体的な未来を描ける方もいます。
一方で、
「まだ先のことは分からない」
「今はそこまで考えられない」
という方もいます。
病気や怪我をした直後の混乱期であれば、なおさらです。
本人に目標を考えてもらうことを大切にするあまり、
「目標を明確にしましょう」
「退院したら何がしたいですか?」
と専門職側が必要以上に問い続けてしまえば、「本人中心」を目指しているはずなのに、いつの間にか専門職側の価値観を押しつけてしまう可能性もあります。
だから私は、
本人中心=本人に目標を言ってもらうこと
だけではないと考えています。
目標設定の仕方も、人それぞれ
目標設定の仕方にも「人それぞれ」のやり方があります。
例えば、
・「将来こうなりたい」という未来から逆算して目標を考える人
・今できることを一つひとつ積み上げながら、その先を考える人
・大まかな方向だけ決めて進みたい人
・あえて明確な目標を設定しない方が動きやすい人
どれが正しいということではありません。
これは、リハビリテーションにおける目標設定でも同じではないでしょうか。

「目標設定の仕方も、人それぞれ」
例えば、
「また旅行に行きたい」
という未来を描き、そこから「そのために今、何が必要なのか」を逆算して考えられる人もいます。
一方で、
「まずは一人でトイレまで歩きたい」
と、今の困りごとや目の前の一歩から考え、できることを積み重ねる中で、その先の目標が少しずつ見えてくる人もいます。
どちらが良いということではありません。
あるいは、今はまだ目標そのものを考えられない、でも、「何かしないと!」と思うこともあるのではないでしょうか。
だからこそ大切なのは、
その人が今、どのような状態にいるのか。
その人の性格や価値観、生活背景、そして今置かれている状況も含めて、一緒に対話をしながら考えていくことだと思います。
目標設定の仕方に違いがあるように、コミュニケーションの取り方や、考えを整理するペースも人それぞれです。
こうした「相手に合わせた関わり」は、対象者との目標設定だけでなく、リハ職のスタッフ育成やマネジメントにも共通します。
関連記事:理学療法士の管理職が抱えるコミュニケーションの悩みとは?
「目標・目的・ビジョン」をストーリーでつなげる
私は目標設定について考える際、
目標・目的・ビジョン
の3つを分けて考えることを大切にしています。
それぞれの、定義は、
目標:何をするか
目的:何のためにするのか
ビジョン:その先にどのような生活を望んでいるのか
と私は考えています。
例えば、リハビリテーションで、
「一人で近所のスーパーまで歩けるようになる」
という目標が設定されたとします。
これだけでも大切な目標です。
でも、
「なぜ、スーパーまで歩きたいのですか?」
ということを一緒に考えてみる。
すると、
目標
一人で近所のスーパーまで歩けるようになる。
↓
目的
自分で食べたいものを選んで、買い物をしたい。
↓
ビジョン
退院してからも、できるだけ自分で選択しながら、自分らしく生活したい。
というストーリーが見えてくるかもしれません。

「目標・目的・ビジョンをストーリーでつなげる」
専門職から見ると「屋外歩行自立」という一つの目標でも、その先には、その人にとって大切な生活があります。
だからこそ、目標だけを見るのではなく、
「その目標は、何につながっているのか?」
という、目的やビジョンまで一緒に考えることが大切なのだと思います。
人は、目標・目的・ビジョンの解像度が上がれば上がるほど、行動に繋がりやすいとも言われています。
また、その人にとって大切な目標や目的を共有することは、理学療法士だけでなく、医師、看護師、作業療法士、言語聴覚士、介護職など、多職種が同じ方向を向いて支援するうえでも大切です。
対象者を中心に「何を目指すのか」を共有することは、多職種連携におけるコミュニケーションにもつながります。
また、多職種連携の際に、多職種間での対話の主語が「対象者」となることが重要です。
▶ 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士のリーダーに必要な5つのコミュニケーションスキル
そこでコーチングという「対話」が活きる
では、その人にとって大切な目標を一緒に考えていくためには、どのような関わりが必要なのでしょうか。
そこで活用できる一つの方法が、コーチングのマインドやスキルです。
コーチングというと、
「質問して答えを引き出す」
という、コーチングスキル的なイメージを持つ方もいるかもしれません。
しかし、私はコーチングを、
「相手から目標を引き出すための技術」
だけだとは考えていません。
大切なのは、
その人は何を大切にしているのか。
今、どんなことを感じているのか。
どのような生活を望んでいるのか。
そして、今はどのくらい未来について考えられる状態なのか。
そうしたことを、相手の可能性を信じながら、対話を通して一緒に探索していくことです。
コーチングは、国際コーチング連盟では、
「思考を刺激し続ける創造的なプロセスを通して、クライアントが自身の可能性を公私において最大化させるように、コーチとクライアントのパートナー関係を築くこと」
と定義しています。
こうしたパートナー関係を築くことは、リハ職と対象者の関係性にも通じるところがあるのではないでしょうか。
そして、コーチングスキルだけではなく、コーチングマインドの
「相手の中に答えがある」「相手には無限の可能性がある」
このようなマインドを持つことで、より自然とスキルが活かせるようになります。
なお、コーチングのマインドやスキルは、対象者との関わりだけでなく、リハ職が学生や後輩の成長を支援する場面にも活かすことができます。
理学療法士の臨床実習指導とコーチングについては、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
▶ 理学療法士の臨床実習指導に活かすコーチング|指導者のコンピテンシー
リハビリの目標設定に活かせる「問い」
例えば、目標設定の場面で、
「目標は何ですか?」
と聞くだけではなく、
「できるようになったら、何をしてみたいですか?」
「それができることは、○○さんにとってどんな意味がありますか?」
「今、一番困っていることは何ですか?」
「今の段階で、まずできたらいいなと思うことはありますか?」
「以前は、どんなことを大切にして生活されていましたか?」
といった問いを使うこともできます。
もちろん、すべての対象者に同じ質問をする必要はありません。
大切なのは、「良い質問をすること」以上に、
目の前の人を知ろうとすること。
そのための一つの手段として、問いがあります。
そして、問いかけた後には、相手の言葉を「聴く」ことも欠かせません。
質問することそのものが目的なのではなく、
対話を通して、その人への理解を深めていくこと。
その姿勢こそが大切なのだと思います。
「目標を立てる」から「その人らしい目標を共につくる」へ
リハビリテーションにおいて、目標設定は欠かすことのできない大切なプロセスです。
一方で、目標を具体的に設定することだけが大切なのではないと、私は考えています。
その人は、何を大切にしているのか。
今、どのような思いでいるのか。
どんな生活を望んでいるのか。
そして、今はどのくらい未来について考えられる状態なのか。
そうしたことを、対話を通して一緒に探索していく。
コーチングは、対象者に目標を言ってもらうための技術ではありません。
相手の可能性を信じ、その人の価値観や思いに耳を傾けながら、一緒にこれからを考えていくための関わり方です。
「目標を立てる」から、
「その人らしい目標を共につくる」へ。
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などのリハ職が、目標設定にコーチングという対話の視点を取り入れることで、その人らしい生活につながるリハビリテーションを考える一つのきっかけになるのではないでしょうか。
病院や施設だけでなく、地域で活動するリハ職を対象とした「対話力・助言力」を高める研修・講演については、こちらで詳しくご紹介しています。
▶ 地域で活躍するリハビリテーション専門職の「対話力・助言力」を高める研修・講演のご案内
リハ職向けの研修・講演について
Be a Smileでは、理学療法士としての臨床・マネジメント経験と、国際コーチング連盟(ICF)認定コーチとしての経験を活かし、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などのリハ職をはじめ、医療・介護・福祉専門職を対象としたコーチングやコミュニケーションの研修・講演を行っています。
一方的に知識をお伝えするのではなく、対話やワークを通して、一人ひとりが自分自身の臨床や関わりを振り返り、「明日からやってみよう」と思える時間を大切にしています。
対象者との関わり、学生・後輩育成、多職種連携、リーダーシップ、地域ケアなど、ご希望のテーマに合わせた研修内容のご相談も承っています。
研修・講演についてのご相談は、Be a Smileのお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。
参考文献・資料
・World Health Organization. Rehabilitation.
WHO「Rehabilitation」
・Rose A, et al. Person-centered goal setting in physical rehabilitation: A systematic review.
PubMed「Person-centered goal setting in physical rehabilitation」
・患者中心の目標設定に関するスコーピングレビュー
PubMed「Patient-centred goal setting in rehabilitation」
・公益社団法人日本理学療法士協会「理学療法士業務指針」
日本理学療法士協会「理学療法士業務指針」
・リハビリテーション領域におけるShared Decision Making(共同意思決定)と目標設定に関する国内研究
J-STAGE「目標設定とShared Decision Makingに関する研究」
・国際コーチング連盟日本支部「コーチングの定義」
コーチングについて




