スタッフとの対話が「報連相」で終わっていませんか?
医療・介護・リハビリの現場では、スタッフとの会話が「現状確認」や「問題の深掘り」で終わってしまうことがよくあります。
「なぜ利用者さんのADLが上がらないのか」「なぜ業務が回らないのか」「なぜ人間関係がうまくいかないのか」――。
このような“現状の問題”に真摯に向き合う姿勢は、専門職として欠かせません。
しかし、問題ばかりに焦点を当て続けていると、チームの視野が狭くなり、行動も守りに入りがちです。
特に理学療法士・作業療法士・言語聴覚士といったリーダー職が「問題志向」に偏ると、現場には“改善”は生まれても、“変革”は起きにくくなります。
対話を変える鍵は「ビジョンと現実のGAP」
そんな時こそ意識したいのが、「ビジョンと現実のGAPを生み出す対話」です。
ここでいう“GAP”とは、「理想と現実の差」。
この差を見つけることこそが、チームを動かす最初のエネルギーになります。
心理学者エドウィン・ロックによる**目標設定理論(Goal Setting Theory)**では、
「明確な目標と現状の間に適度なギャップがあるほど、人は行動意欲を高める」
とされています(Locke & Latham, 2002)。
つまり、ビジョンを描くことは、夢を語ることではなく、**行動を生み出す“起点”**なのです。
対話を変える3つの視点
では、具体的にどのようにGAPを生み出せば良いのでしょうか。
ポイントは、次の3つの視点を対話の中に持ち込むことです。
①目標(Goal)
今の問題をどのようにクリアしたいか?
例:「申し送りの時間を10分短縮する」「利用者Aさんの移乗を安全に行えるようにする」
②目的(Purpose)
そもそも、なぜその問題を解決する必要があるのか?
例:「スタッフが安心して勤務交代できるように」「利用者の生活の自立度を高めるため」
③ビジョン(Vision)
その問題が解決されたとき、自分・チーム・組織・地域がどうなっていたら理想か?
例:「誰もが安心して意見を出せるチーム」「利用者・家族・職員が笑顔で過ごせる職場」
この3つを言葉にしていく過程で、自然と**“現状とのギャップ”が浮かび上がります。**
このギャップが見えた瞬間に、人は「どうすれば埋められるか?」を考え始めるのです。
問題を掘るより、未来を描く問いを
スタッフとの1on1やミーティングで、
「今、何が問題?」と聞く代わりに、
「この課題が解決したら、どんな状態が理想?」
「その状態に向けて、まず何ができそう?」
といった問いを投げかけてみましょう。
こうした**“ビジョン起点の対話”**を重ねることで、スタッフの視点が“問題”から“可能性”へとシフトしていきます。
これはコーチング心理学やポジティブ心理学の研究でも支持されており、人の自己効力感や主体性を高める要素とされています(Bandura, 1997)。
“問題を解く人”から、“GAPを創る人”へ
現場のリーダーが「問題を分析する人」から「GAPを創り出す人」へと変わると、チームの空気が変わります。
スタッフ一人ひとりが、“自分たちで理想を描き、現実を変えようとする文化”が少しずつ育っていくのです。
対話とは、単に情報を伝えることではなく、“未来を共に創る行為”。
だからこそ、リーダーがビジョンを語り、GAPを見せ、そこに向かうエネルギーを引き出すことが大切です。
今日からできる、小さな一歩
日々の対話の中で、ぜひ問いかけてみてください。
「この会話は、問題を掘っているか?それとも未来を描いているか?」
ビジョンと現実のGAPを生み出す問いを投げかけよう。
それが、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士として、
チームの可能性を開く第一歩です。
参考文献
- Locke, E. A., & Latham, G. P. (2002). Building a practically useful theory of goal setting and task motivation. American Psychologist, 57(9), 705–717.
- Bandura, A. (1997). Self-efficacy: The exercise of control. New York: Freeman.
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